性同一性障害における性別変更

 心の性が体の性と一致しない人が戸籍の性別を変更する際、日本では手術で生殖機能をなくすことが求められています。2004年に施行された性同一性障害特例法で、性別適合手術で体の性を心の性に合わせることが性別変更の要件とされています。しかし、世界保健機関(WHO)など国連機関は、2014年に手術の強要は人権侵害であり、自己決定や人間の尊厳の尊重に反するとの共同声明を発表しています。国際的には人権侵害とも批判されています。
 家庭裁判所が、2015年と2016年に男性ホルモンの分泌が過剰になる先天性の疾患により、体は遺伝学的に女性であるが、自分を男性と認識して苦しんできた20代の2人に対し、女性の体のまま戸籍を男性に変えることを認めていたことが分かりました。これらの患者は、出生時に性別判定が難しいことのある性別分化疾患の一種である「21水酸化酵素欠損症」と診断されています。胎児期から男性ホルモンが過剰に分泌され、体が女性であることに強い違和感を持っていました。家庭裁判所は2人が既に男性として生活し、社会的な性別として確立していることなどを考慮しました。医療上の理由などで子宮や卵巣を摘出する手術を受けるのが難しく、戸籍上男性となっても妊娠・出産できる可能性は残していましたが、問題としませんでした。この下級審における2つの判決は、性別の判定基準を体から心に移した点で画期的と考えられます。
 日本精神神経学会の調査によれば、心と体の性の不一致で国内の医療機関を受診した人は延べ22,000人以上に上っています。この中で、2004年の性同一性障害特例法施行後、戸籍の性別を変更した人は2016年末までに約6,900人です。性別適合手術は健康保険の適用外で、実施できる医療機関が少なく、タイなどで受ける人が多くなっています。費用は国内外を問わず100万~200万円程度かかる上、術後の不調に苦しむこともあります。当事者や医療関係者からは、健康な体にメスを入れることへの疑問の声も上がっています。
 海外では、手術を性別変更の要件から除外する動きが進んでおり、既に英独仏など約30カ国では手術なしでも性別を変更できています。日本でも近年、性的少数者(LGBTなど)の人権に関心が高まっています。心の性を重くとらえた今回の家庭裁判所の判決は、時代の流れに沿ったものと思われます。

(吉村 やすのり)

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