性差の見直し

ジェンダード・イノベーションとは、生物学的な性別(セックス)や社会的な性別(ジェンダー)の性差を分析し、研究開発に組み入れることでより質の高い研究や技術革新を目指す考え方です。近年、研究開発に性差の視点を取り入れるジェンダード・イノベーションが知られるようになってきています。オス中心の動物実験や、男性の人体ダミーに基づく安全設計などによって様々な偏りがある現状を明らかにし、性差を考慮することで、研究開発の質を高めようという考え方です。
医薬品開発において、動物実験に使われるマウスは、妊娠出産や性周期の影響のないオス中心で、臨床試験の被験者も男性が多くなっています。そのために薬の効き方が男女で異なってしまい、一部の医薬品は女性により高いリスクがあることが分かっています。一方、骨粗しょう症は女性の病気と思われがちで、臨床研究は男性を対象にしてきませんでした。しかし、男性も発症年齢が遅いだけで、75歳以上の男性の骨粗しょう症のリスクは十分に高いという例もみられます。自動車のシートベルトの衝突実験では、主に男性のダミー人形が使われていました。
ジェンダード・イノベーションは多様な業種に広がりつつあります。専門家の男性比率が圧倒的に高いAI分野もその一つです。学習するデータの収集やアルゴリズムの設計、運用などの過程に入り込んだバイアスが、女性やマイノリティーに不利益や差別されやすい状況をもたらすことが知られています。
性差の考慮は、今まで考えもしなったような先進的な取り組みにつながり、ビジネスチャンスの創出も期待できます。

(2022年8月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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