性差医療の必要性

男女で、病気のかかりやすさや症状の出方、治療法などが異なることがあります。このような性差に配慮した医療を性差医療と呼びます。前立腺や子宮といった男女で異なる臓器の病気だけでなく、男女共通の病気にも性差があることが近年の研究でわかってきています。
新型コロナウイルス感染症でも、女性より男性のほうが、重症化率や死亡率が高いことが各国で報告されています。もともと女性のほうが、病原体に対する免疫反応が強いこと、また男性では、重症化の原因になる肥満や糖尿病などの持病、喫煙等の悪化要因が多いためと考えられています。女性は免疫反応が強いゆえに、新型コロナのワクチン接種によって体内に作られる抗体量が男性より多い傾向にあり、副反応も出やすいことが分かっています。
心臓の病気にも性差があります。その代表が心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が狭くなる狭心症です。男性の場合、大半は典型的な症状といわれる胸痛を訴えますが、女性では他にも顎やのど、肩、腹部、背中の痛み、吐き気などの症状が多く、狭心症の診断がつきにくいことがあります。
男性は、体を動かしている時に冠動脈の血流低下が起こる労作性狭心症が多いとされています。女性は、心臓の筋肉にもぐり込んだ小さな血管の血流が不足する微小血管狭心症が、特に更年期前後によく見られます。労作性狭心症にはニトログリセリンが効きますが、微小血管狭心症にはカルシウム拮抗薬が効果的です。
この性差には、性ホルモンの違いが大きく関与しています。女性ホルモンのエストロゲンには血管や骨など全身を保護する働きがあり、女性は分泌量が減る閉経前後までは、男性に比べ生活習慣病になりにくくなっています。男性ホルモンにも保護作用はありますが、エストロゲンより弱いとされています。
男性は、女性より早く40代頃から生活習慣病だけでなく、心筋梗塞やがんといった命にかかわる病気も増えます。一方、女性は、閉経を迎える50歳前後から動脈硬化や生活習慣病、骨粗しょう症などが一気に進みます。例えば動脈硬化のリスクとして知られる血中LDLコレステロール値は、通常更年期以降に急上昇します。

(2022年6月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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