感染症学における再生産数の意義

感染症学では、増減の割合を再生産数と言います。再生産数には、基本再生産数と実効再生産数の2種類があります。基本再生産数は、感染が広がりだす最初期のウイルスが本来持つ感染力の指標です。実際はさまざまな対策や人々の行動変容によって再生産数は低下し、この値が実効再生産数と呼ばれます。
専門家が使う実効再生産数は、複雑な計算で導き出されています。感染中の人、まだ感染していない人、感染から回復した人という3つの数字が互いにどんな関係にあるかを方程式に表し、これを解くことで得られます。政府の専門家会議が発表してきた実効再生産数も、このような計算に基づいています。しかし、新型コロナに感染した人が診断され、これまで報告されるまでには平均2週間かかりました。そのため、今日の実効再生産数が確認できるのは2週間後になってしまうという欠点があります。最近では再生産数ではなく、感染者が2倍になる倍加時間が使用されるようになりました。
このように、再生産数には色々な計算方法があり複雑になりがちです。九州大学の中山正敏名誉教授によれば、今日の感染者を前日の感染者で割った値が、再生産数だと考えてよいとされています。例えば前日の感染者数が10人で、今日は11人に増えたなら、11を10で割って1.1になります。つまり1人の感染者がうみだす感染者数が再生産数で、1より小さければ感染は収束すると考えればよいそうです。
5月に緊急事態宣言を解除する際、政府は再指定の目安となる基準として、直近1週間の①累計新規感染者数、②感染者が2倍になる倍加時間、③感染経路不明者の割合の3つを中心に総合的に判断しています。3つ目の指標である感染経路不明者の割合は、日本が取ってきた独自の対策です。感染拡大の初期は、クラスター(感染者集団)を特定することで次の感染を防いでいましたが、経路不明者の多さは市中感染が広がっていることを示しています。

(2020年7月7日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。