感染症病床の減少がもたらしたもの

少子高齢化社会を迎え、医療費は増加の一途をたどっています。近年、医療費の抑制政策を優先し、昨年の経済財政諮問会議で病院再編が提唱され、病院や診療科の統廃合や病床数の減少が求められています。確かに、わが国は世界の中でかなりベッド数が多くなっています。経済協力開発機構(OECD)のデータで人口千人当たりの病床数を見ると、日本は最多の13.1床で、各国平均の4.7床を大きく上回っています。
わが国では、病床の内訳をみると一般病床や精神病床が多いのに対し、感染症病床はごくわずかです。厚生労働省の調査によれば、2018年の精神病床なども含む約164万病床のうち、一般病床57.6%、精神病床21.3%に対し、感染病床は0.1%に過ぎません。感染病床は、1995年の9,974床から、2018年は1,882床にまで減少しています。不採算とされる感染症病床は、9割近くを公立や公的病院が担っており、利益を出すことを優先する市場メカニズムにそぐわないとされてきました。
今回の新型コロナ禍での受け入れ病床の不足は、感染症病床を大巾に減らしてきたことに基因しているともいえます。感染症は突然発生し、普段は稼働率が低くかったとしても、いざという時に使えることが大切となります。医療費抑制や効率ばかりを追求していれば、感染症対策は立ちゆかなくなります。
新型コロナ問題では、病床だけでなく、感染症に対応できる医師、看護師、検査技師の不足も深刻です。平時は重視されない感染症や救急の医療の重みを顧みずにきたことにより、感染拡大に対応しきれず医療崩壊状態を招く危険性をはらんでいます。ポストコロナ社会においては、パンデミックによる医療資源や人的リソースの不足に伴う医療崩壊への感染症対策が急務です。

(吉村 やすのり)

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