新卒の一括採用制度を考える

新卒一括採用制度の大きな特徴は、すでに労働市場に参入している就業者や失業者とは別枠で、新卒者を採用する点にあります。日本の企業の多くは、従業員の長期的な訓練役割を担い、自前で人材を育ててきました。日本の新卒者は、具体的な職業スキルや職務経験を持たなくとも、優先的な就職チャンスが与えられてきました。大学卒業者について、就職希望者数に占める就職者数を示す就職率は、7年連続で上昇し、2018年3月の卒業者では98.0%という高い水準を記録しています。
日本企業は、将来の会社の基軸となる人材を目前で育成しようとする傾向が強くみられます。就職後の育成が効率的に進むには、できるだけ若い方が望ましくなります。同じ若い人材でも、他社経験がない新卒者の方が、仕事を教えやすいと考える企業も少なくありません。長期的な視点から新卒者を採用する企業は、多大な訓練費用を負担するので、新卒者が定着するように仕向ける必要があります。定着することで賃金が上がる仕組みは、離職抑止メカニズムとして機能します。このように、長期雇用、年功序列、新卒採用の重視という、いわゆる日本的雇用慣行は、企業内での人材育成の重視という日本企業の特徴から派生しています。
欧米のようにジョブ型の雇用システムを持つ社会には、新卒一括採用制度が存在しません。新卒者も基本的に、既に労働市場に参入している就業者・失業者と競争しつつ仕事を得ることになります。採用は仕事(ジョブ)単位で行われ、職務内容が明確に定められた各仕事に就くためには、それを適切にこなすためのスキルや、その基礎となる職務経験が重視されます。職務経験のない新卒者はどうしても不利になりがちで、若年失業者・非就業者の増加が深刻な問題となることも多くなっています。
日本企業の新卒重視採用には功罪があります。少子高齢化の影響で、新規採用に占める若者の割合は現在低下しつつあり、今後も低下していきます。そのため幅広い世代の人材活用を企業に促す方向に働くと思われ、成長企業はこれまで以上に人材の多様化と中途採用を増やす必要に迫られる公算が大きくなります。また、現在進行中の技術や経済環境の急激な変化は、新卒採用のメリットを変化させる可能性があります。人工知能(AI)の導入など技術・環境の変化が激しい時期や産業では、企業内でのスキルやノウハウの継承が必要なくなるかもしれません。

(2018年5月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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