新型コロナウイルスにおける自然免疫の役割

大阪大学の宮坂昌之教授は、新型コロナウイルスにおける自然免疫の役割について、免疫学の新しい常識を提示しておられます。ヒトの免疫機構は、自然免疫が生まれた時から備わっていて、まず皮膚や粘膜の物理的、化学的バリアーが病原体の侵入を防ぎます。そこが突破されても、白血球の一種である食細胞が病原体を食べてくれます。自然免疫で排除できなければ、獲得免疫が作用します。獲得免疫は発動までに数日かかります。最初に刺激されるのはヘルパーTリンパ球で、獲得免疫の司令塔です。これがBリンパ球に指令を出すと、Bリンパ球は抗体を作ってウイルスを殺し、ヘルパーTリンパ球がキラーTリンパ球に指示すれば、キラーTリンパ球はウイルスに感染した細胞を殺します。
抗体が無くても、自然免疫が強いか、キラーTリンパ球が活躍すれば回復できるとされています。自然免疫が強ければ、それだけで新型コロナを撃退できる人もいます。全体の1割程度は、自然免疫だけで新型コロナを排除できるのではないかと推測されています。
新型コロナウイルスでは、抗体は免疫の中であまり大きな役割を担っていない可能性があります。回復した人の3分の1は抗体をほとんど持っていないとの研究結果もあります。また、3種の抗体があり、一つはウイルスを攻撃して排除する善玉抗体です。逆にウイルスを活性化させる悪玉抗体と、攻撃もしないし活性化もさせない役なし抗体もあります。無症状感染者は抗体量が少なく、重症者は、無症状、軽症者より常に抗体が多い傾向がはっきりと示されています。善玉抗体がたくさんできてウイルスを撃退すれば軽症で済むはずです。重症者に抗体が多い新型コロナは、悪玉抗体を多く生み出し、抗体がウイルスの増殖を助けていると考えられます。
新型コロナの免疫が続く期間はとても短く、半年程度ではないかと考えられています。免疫が半年しか続かなければ、集団免疫はいつまでたっても獲得できません。破傷風やポリオなど、ワクチンを一度打てば免疫が数十年も続く病気もあれば、インフルエンザウイルスのように3カ月程度しか続かないものもあります。新型コロナはワクチンが出来ても、インフルエンザと同じように有効期間は極めて短いものになるのではないかと考えられています。
コロナウイルス感染は、他人と1.5mの距離を保つ、マスクを着ける、空気感染を防ぐために換気する、手洗いするなどの緩やかな接触制限と行動変容で対応できます。50代を過ぎると免疫力は半分になります。高齢者は特に3密を防ぐことが重要です。免疫を強くすることはできません。強くするのではなく、自分が持つ免疫をフル活用できる状態に保持することが大切です。それにはまずストレスの少ない生活をすることです。

(2020年7月18日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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