新型コロナウイルスによる重症化

新型コロナウイルスに感染しても、多くの人は命に関わることはありません。中国での新型コロナウイルス患者の大規模疫学調査においても、感染しても8割は、軽症か中程度で、入院が必要になるのは2割程度、重篤になるのは5%程度とされています。ウイルスは、鼻や喉から体内に取り込まれ、細胞の表面にあるACE2という受容体にくっつき細胞に侵入します。鼻の内側の細胞にはこの受容体が多く、細胞を乗っ取ってどんどん増えていき、熱や空咳、味覚や嗅覚の消失が起きるとされています。
ウイルスが肺に到達すると肺胞の表面にあるACE2に、ウイルスがくっついて侵入すると、免疫が攻撃するため肺胞が炎症を起こします。肺炎以外にも、脳や目の結膜の炎症、腎臓や肝臓の損傷、下痢などの症状も出ます。新型コロナは肺が主戦場ですが、全身の血管の病気です。
全身の臓器の炎症は、サイトカインストームと呼ばれる免疫系の暴走によって起こります。サイトカインは細胞から分泌され、免疫や炎症を調節するたんぱく質で、他の細胞に命令を伝えます。ウイルスの侵入によって分泌されたサイトカインが増えすぎて、嵐(ストーム)のように暴走すると、正常な細胞も攻撃してしまいます。これが新型コロナ重症化の原因とされています。最近注目されているのが、血栓ができ血管が詰まり、容体が悪化するリスクです。
海外では新型コロナ重症患者の2、3割に血栓症が見られるという報告もあります。血栓は脳梗塞や心筋梗塞の原因にもなります。それほど重症でなかったのに、突然死した場合は、血栓症が原因となっている可能性は否定できません。しかし、コロナによって脳梗塞を起こしたという事例はまだ国内で確認されていません。日本ではコロナによる死亡者が少ないこともあり、コロナとの関係の解明はこれからの課題ですが、心臓病の人は感染に気を付けるべきです。

(2020年6月5日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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