新型コロナウイルスのゲノム情報による感染ルートの解明

新型コロナウイルスは、ゲノムの情報をもとに自分のコピーを生み出していきます。この時使われるゲノムは、A、U、G、Cという4種類の文字で表される塩基が約3万個も並んでできたRNA(リボ核酸)に保存されています。この遺伝情報は変化(変異)しやすく、概ね15日間に1文字のペースで、塩基が別のものに変異していくことが分かっています。
最近、保健所が聞き取りをしても、ウイルスがどのように伝わったのかが分からない感染例が増えています。ゲノム解析は、そんな時の感染ルートの解明に役立ちます。中国・武漢から各地に広がったウイルスは、それぞれの地域で、時間の経過とともに別々の変異を繰り返していきます。ゲノムの変化を追うことで、ウイルスが地域ごとにどのように伝わっているか、推測することが可能になります。
しかし、感染ルートの解明には限界もあります。発生した感染集団(クラスター)のウイルスゲノムと一致したゲノムをもつ感染者が別の地域で見つかっても、それだけではクラスターから感染したことにはなりません。ウイルスが変異する前に、別の人を介して伝わったかもしれないからです。やはり、患者への聞き取り調査も欠かせません。ウイルスのゲノム情報は、間違って使われると感染者への差別につながる可能性もでてきます。個人の責任を追及するような手段として利用してはいけません。

(2020年11月26日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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