母体保護法の24年ぶりの改正

厚生労働省は24年ぶりに、1996年9月の通知母体保護法の施行についての一部を改正しています。同法第14条には、「身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」または「暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」については、「本人及配偶者の同意を得て」母体保護法指定医師が人工妊娠中絶を行うことができるとされています。この場合、配偶者とは法律上の夫であり、遺伝的な胎児の父(夫以外からの性暴力の場合は加害者)ではありません。
未婚で同棲もしていない場合は、本人の同意のみで中絶手術を受けることは可能です。つまり、性的暴行(強制性性交等)などの同意なき性交により妊娠し、女性が中絶を希望した場合、本人の同意のみで足るということです。しかし、実際の医療現場では、そうした場合でも必要ないはずの加害者の同意を求めるケースや、強制性交などの起訴状・判決文を求めるケースが相次いでいます。
これを受け、厚生労働省は日本医師会の疑義照会への回答として、母体保護法第14条1項2号は、強制性交の加害者の同意を求める趣旨ではないとの見解を示しました。またこれを踏まえ、24年ぶりに同法に関する通知の一部改正を行っています。
今回の母体保護法の一部改正は評価できますが、未だ配偶者の同意の必要性について言及できていない点については問題が残ったままです。女性の健康と人権を守る立場にある産婦人科医は、性暴力と被害者支援に関心を持ち、プロフェショナルオートノミーを貫くべきです。

 

(家族と健康 第801号2020.12.1)
(吉村 やすのり)

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