特別養子縁組における出自を知る権利

特別養子縁組は、貧困や虐待などの事情で、生みの親が育てられない子と、子を育てたい夫婦を結ぶ制度です。裁判所の審判を経て成立します。民法改正で1988年に導入されました。第1世代の子どもたちが成長し、出自を知る権利の保障が問題となってきています。
日本も1994年に批准した国連の子どもの権利条約では、子どもはできる限り父母を知る権利があると記されています。しかし、国内では、この権利は法制化されておらず、特別養子縁組に関する情報について、何を保管し、どこまで開示するかは、自治体や民間斡旋機関の判断任せになっています。
特別養子が生みの親の情報を得るには、斡旋を担当した児童相談所や民間斡旋機関を頼ることが多くなります。しかし、全国の児童相談所と民間斡旋機関のうち、開示ルールを定めていたのは37%にとどまっています。家庭裁判所の記録を入手し、生みの親の名前や本籍地、妊娠から養子に託された経緯などを知ることができる場合もあります。
出自を知る権利の保障は、匿名の第三者の精子を使った不妊治療で生まれた子どもも要望しています。熊本市の慈恵病院が導入した、病院以外に身元を明かさずに出産できる内密出産の議論でも問題になっています。全ての子どもに対し、出自を知る権利を国内法で保障した上で、どの記録をどう開示するのかのルールを定めることが必要になります。生みの親に関する情報を得たい養子に、記録を得る方法を提供し、揺れる気持ちに寄り添うカウンセリングの機会の保障が大切となります。

(2022年8月15日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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