生殖医療と周産期医療の狭間で―Ⅳ

少子化社会にあって
生殖現象の中で妊娠ほど男女間で理解がかけ離れているものはない。有史以来、妊娠は女性を象徴する現象として捉えられてきた。女性の理想的な妊娠時期は25~35歳であり、この時期に分娩できるような社会や職場の環境づくりが大切である。そのためには、高齢妊娠の困難性や危険性を思春期の頃より教育することが重要であり、若い男女にお互いの身体の仕組みを理解してもらうことが必要となる。このような情報が、女性の社会進出や真の意味での男女平等を考える上で、重要な視座を提供することになる。心健やかに産み、安心して子育てや教育ができる成熟した社会の実現なくして、加速する少子化を断ち切ることはできない。
次世代の産出と少子化問題との関連で強調しなければならないことは、男女の生物学的な差異の論議を封じてはならないことである。これはあくまでも男女のからだの仕組みの差異を示しており、差別を意味するものではない。生命の維持や生殖に関する生物学的な仕組みは、種を超えて共通であることは冷厳な事実であり、再認識することが大切である。ヒトは他の動物と異なり予防医学の進歩により平均寿命の延長がみられているが、にもかかわらず生殖年齢の延長を期することはできないのである。男女の身体的差異を十分に理解した上で、個々の自律的な選択が尊重されるべきであることには贅言を要しないが、男女の差異と差別を混同し、男女平等の概念が論じられてはならない。こうした教育に担わるのも産婦人科医の重要な責務なのである。

(生殖医療と周産期のリエゾン 診断と治療社)
(吉村 やすのり)

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