生殖医療の未来―Ⅴ

生殖医療への再生医学の応用
再生医学の生殖医療への応用を考えた場合、無精子症や早発月経のような絶対不妊などの生殖機能障害を持つカップルから、ヒト胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell;ES 細胞)、iPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell)を樹立し、配偶子へ分化させることが可能となれば、精子や卵子の提供を受けることなく、子どもを持てる時代が到来するかもしれない。わが国においてもES細胞、iPS細胞から配偶子を作製する研究が許可されているが、その際、現在のところ作製された配偶子を利用して受精卵の作製をしてはならないとされている。英国やシンガポールではiPS細胞より分化させた配偶子を用いて受精卵を作製する研究が許可されているが、他の国では禁止されている。生殖医学に携わる研究者にとっては、受精をさせた後の胚として正常発育を観察できなければ、配偶子とみなすことはできないとし、受精後の胚を体内に移植することを禁止すればよいとの考え方もある。しかしながら、社会のコンセンサスを得るためには、ヒトES細胞やiPS細胞の研究においては、まず配偶子作製が試みられるべきであろう。
ヒトiPS細胞の樹立は、ヒト胚の破損を伴わないという点においてヒトES細胞に付随する倫理的課題を回避しているが、その一方で新たな課題も提起されている。例えば、ヒトiPS細胞の作製と生殖細胞への分化誘導は、免疫拒絶が起こらず、同一人物や同性に由来する配偶子を用いて受精させることが可能である点は利点であるが、自然界では起こりえない胚の作製により、子どもが誕生する可能性があることも考慮しておかなければならない。また、iPS細胞は毛根や血液といった微量の細胞ソースからでも樹立可能であることから、ヒト細胞に対する厳重な管理と、取り扱う科学者の研究に対する倫理認識を新たにする必要がある。ヒトiPS細胞の医療への応用は重要課題であるが、その前に乗り越えなければならないハードルはいくつもある。

 

(生殖医療の未来を見すえて)
(吉村 やすのり)

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