生涯現役社会の到来―Ⅲ

新しい雇用の創造
60歳以上のシニア労働者にいかに活躍してもらうのかは、わが国が直面している重要な政策課題です。その背景には、労働力人口が減少するとともに、シニア労働者が、大きな労働者集団に膨らんでいることがあります。わが国の就業者数の構成を労働力調査でみると、2018年時点で、全就業者6,664万人のうち60~64歳が7.9%、65~69歳が6.6%、70歳以上が6.3%であり、シニア労働者は、実に就業者の5人に1人を占めています。このことは、日本企業は、社員の5人に1人がシニア社員の時代を迎え、覚悟を持ってシニア社員の戦力化に取り組まざるをえない状況にあることを示しています。
60歳定年を境に、働きぶりを評価せず、仕事、成果と関係なく賃金を決めています。つまり成果を期待することなく、シニア社員を再雇用する企業が多くなっています。こうした雇用派、福祉的雇用と呼ぶにふさわしく、仕事内容と賃金が合わない、成果をあげても賃金があがらないとの不満が大きくなり、シニア社員の労働意欲を低下させることになります。最も重要なことは、シニア社員に期待する役割を明確にすることにあります。シニア社員にとってみれば、役割が曖昧であることは、職場で必要とされていないまま再雇用されることになり、労働意欲をもって仕事に取り組む気持ちになれません。
シニア労働者の働き方、キャリアは、現役労働者以上に多様化するということが必要になります。これまで経験したことがそのまま生かせる場を見つけることは難しいことを理解し、企業あるいは労働市場の人材ニーズをみながら、蓄積してきた能力のどの部分が生かせるかを見極めることが大切です。人手不足に悩み、特定業務で即戦力になる人材を求める中小企業は多くなっています。シニア労働者であれば、こうした人材需要に短時間勤務あるいは短日勤務の雇用で対応できます。人材ニーズを持つ複数の企業で働くといった人材のシェアリングも有効です。企業は期待する役割を明確にし、報酬を役割に合わせて決めることが大切です。

(Wedge June 2019)
(吉村 やすのり)

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