着床前スクリーニングの臨床研究

 日本産科婦人科学会は、体外受精させた受精卵の染色体を調べ、異常がないものを子宮に戻す着床前スクリーニングの臨床研究を開始しています。当面は計100組の夫婦で予備研究を実施します。対象は、体外受精を3回以上失敗、あるいは流産を2回以上経験した女性です。まず数施設で100人に実施、続いて数百人規模の本研究を行います。実際に妊娠例が出るのは今年夏以降になる見通しです。
 現在は重い遺伝病などの場合に限り、受精卵の特定の遺伝子などを調べることが認められていますが、着床前スクリーニングは不妊に悩む女性を対象に受精卵のすべての染色体を調べることになります。海外では妊娠率が向上したとする報告がみられておりますが、未だ確定的な科学的エビデンスは得られていません。生まれる可能性がある受精卵が排除されるなど、倫理的な問題も指摘されています。
 この予備研究はあくまでも臨床研究に必要な対象の症例数を検証するものであり、本研究は予備研究に続いて実施される予定です。着床前スクリーニングには様々な倫理的な問題点が指摘される中、導入前に検査の有用性を科学的検証することは極めて意義深いと考えられます。科学的有用性が認められなければスクリーニングを実施する必要はありません。有用性が認められた場合には、導入にあたっての倫理的妥当性を含めた社会的な議論が必要となります。本臨床研究は着床前スクリーニング導入のみを意図した研究ではないことを銘記すべきです。

(2017年2月15日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。