着床前遺伝子スクリーニング(PGS)の指針違反

 日本産科婦人科学会は、着床前遺伝子スクリーニングを実施した神戸市の産婦人科医に対し、24日理事会で会員資格と産婦人科専門医の資格を同日から3年間の停止処分とすることを決めました。今後会員として学会発表などが不可能になるほか、専門医を名乗ることができなくなります。PGSは、体外受精による受精卵の全染色体を検査し、異常のないものだけを母体に返す検査です。PGSを実施することにより、流産しにくくなる効果が期待される一方、命の選別や男女産み分けにつながるとの批判が強く、日本産科婦人科学会は、現在会告で禁止しています。
 日本産科婦人科学会は、同医師を会告違反で、昨年3月にけん責とし、PGSを中止する誓約書を出すよう求めていたが、拒否してきたため、さらに重い処分としました。同医師は、以前にも男女産み分けのためにPGSを実施し、学会より除名処分を受け、訴訟を行っていましたが、敗訴となり会告を遵守することを条件に学会に復帰したという経緯がありました。今後もまた、患者の人権を守るため、処分にかかわらず治療を続けるとしています。
 同医師はPGSを行うことにより、妊娠率や生産率が上昇し、流産率が減少するといった効果を強調しておりますが、得られたデータの科学的エビデンスは低く、有用性の検証はできていません。現在、学会では、2月よりPGSによる妊娠率や流産率の改善効果を調べる目的で臨床研究を始めています。欧米においても、高齢女性に対するPGSの有用性についての臨床研究が実施されていますが、未だ結論が出ていない状況です。わが国のおいてもその有用性の検証がなされており、同医師も、一定の研究プロトコルに従ったこうした臨床研究に参加すべきであると考えられます。

(吉村 やすのり)

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