知らないでいる権利について

 昨年、母体血により新型出生前遺伝子検査がはじまり、染色体異常が判明した場合、ほとんどの症例で中絶が選択されている。もともとこの検査を希望するクライエントは染色体異常の子どもの出産を希望しないため、この結果は予想されたことかもしれない。近年、遺伝子診断が身近になって様々な疾患が診断できるようになり、知る権利が強調されるようになってきている。

 現代は病気を予見する診断技術が先行し、治す技術や患者を支援する体制がついていけていない状況にある。このような状況の中でクライエントは、診断結果を自己決定しなければならない状況に追い込まれる。今後あらゆる疾患遺伝子の診断が可能となる時代がすぐに来るであろう。パーフェクトベイビーを求めて、できる限りの遺伝子診断を希望するクライエントも増えることが予想される。
しかしながら、今こそ「知らないでいる権利」を考えることも必要なのではないか。検査を受けてもその先にまた不安が待ち構えている以上、知らないでいることも選択肢の一つであると思う。真剣に考えていただきたいテーマである。

(2014年3月16日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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