社会保障制度の抜本的改革

税や保険料などで賄う社会保障給付費は現在約120兆円ですが、内閣府などの推計によれば、2040年度には1.5倍の約190兆円に増加します。GDP比は2018年度で21.5%ですが、2040年度には約24%に増加します。この2.5ポイントの増加は約14兆円に相当します。消費税が10%になっても、社会保障改革が進捗せず、仮に消費増税のみで財政再建を行うとすると、中長期的には消費税を24%にまで引き上げる必要があるとされています。また財務省の「我が国の財政に関する長期推計」によれば、医療・介護費のGDP比は2020年度の約9%から、2060年度に約14%に上昇します。この約5ポイントの増加は、約28兆円にも相当します。
政府は2019年10月に消費税率を10%に引き上げる予定ですが、少子高齢化や人口減少が急速に進む中、社会保障費の増加や恒常化する財政赤字により、日本の財政は大変厳しくなってきています。こうした状況の中、社会保障財政の持続可能性を高めるためには、外来受診時の定額負担の導入、後期高齢者などの窓口負担の見直しが必要になります。しかし、これらの改革効果には限界があります。現在の40兆円の国民医療費のうち、保険料と公費で約88%が賄われており、自己負担は残りの約12%に過ぎません。負担を増やしたとしても、財政再建効果は限られています。
法政大学の小黒一正教授は、膨張する医療費管理のための自動調整メカニズムや地域独自の診療報酬の導入を考えています。一つは財務省案で、経済成長や人口減少のスピードに応じ、医療費が増加した時に患者の自己負担を自動的に引き上げる方式です。もう一つは、病院や薬局などが受け取る診療報酬に、自動調整メカニズムを導入する案です。医療費の約3割を占める後期高齢者医療制度の診療報酬への導入を提案しています。75歳以上について、前年度の診療報酬から一定の割合(調整率)を差し引いた額を今年度の診療報酬とするものです。このメカニズムの下では、医療費のGDP比は一定水準に落ち着き、人件費も成長率に連動して伸びることになります。日本の医療制度は、世界に誇るべきものですが、人口減少や低成長、社会保障費の急増が見込まれる中で、その持続可能性が懸念されております。医療においてもマクロ経済スライドの導入が必要になると思われます。

(2018年8月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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