薬剤耐性菌の脅威

薬剤耐性菌とは、感染症を引き起こす細菌を殺したり、増えるのを抑えたりする抗菌薬(抗生物質)が効きにくい状況です。様々な抗菌薬ができ、たくさん使われるようになると、薬の成分を分解したり、体にくっつかないように変異したりして、耐性を身につけた細菌が出てきています。耐性があっても毒性が高まるわけではありません。健康な人なら免疫で抑えられます。しかし、子どもやお年寄り、持病がある人や手術後の人などは、抵抗力が弱く感染症にかかることがあります。効く薬が少ないから治すのが難しく、重症化したり、亡くなったりすることもあります。
現在、多くの抗菌薬が効かなくなった多剤耐性菌が問題になっています。身近な細菌の中にも、薬剤耐性を持つ黄色ブドウ球菌や大腸菌などがあります。薬剤耐性菌の影響は、特に、衛生や医療の対策が十分に整っていない国などでは深刻となっています。薬剤耐性菌による死亡者数は年100万人を上回り、既にエイズウイルスやマラリアよりも多くの命を奪っています。その5人に1人は5歳未満の子どもや赤ちゃんとされています。2050年に1千万人が耐性菌による感染症で死ぬ恐れがあるとも推計されています。
これまでにいくつもの抗菌薬が開発されてきましたが、それらに耐性を持つ細菌も出現してきました。抗菌薬の乱用などが、耐性の獲得に拍車をかけています。多額の資金や時間を要する一方、いつまで効くか分からない新薬の開発は、新たな耐性菌の出現に追いつかれそうなのが現状です。使える薬がいずれなくなり、手術や高度な医療ができなくなる恐れが出てきます。効果がある薬は適切に使って、薬剤耐性を広めないことが大切です。細菌が耐性を身につける機会を減らすため、医療機関が患者に不必要な抗菌薬を出さないように心掛けるべきです。

 

(2023年3月20日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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