裁量労働制の拡大の必要性

裁量労働制では、実際の労働時間に関係なくあらかじめ定めた時間を働いたとみなし、その時間分の残業代しか出ません。高プロは、専門職で高年収の人を規制の外に置き、深夜・休日の割増賃金もありません。二つの制度では、働く時間を自由に決められるといった利点があります。
安倍首相は、裁量労働制をめぐる不適切データ問題を受けて、裁量労働制の今国会への提出を断念しました。しかし、柔軟に働くための労働時間制度の改革を、後退させてはならないと思います。仕事の進め方や時間配分を働き手自身が決められる裁量労働制の対象業務拡大は、できるだけ早く実現すべきです。対象業務の拡大を先送りにすればするほど、働き方改革の眼目である労働生産性の向上は進みにくくなります。
時間をかけて働くほど賃金が増える現在の制度には、働き手自身の生産性向上への意識が高まりにくいという問題があります。わが国の労働生産性はOECDの中でも低い状況にあり、今後労働力人口が減少してゆく中で生産性を上げてゆかなければなりません。戦後、長く続いてきた仕組みですが、国際的にみて低い日本のホワイトカラーの生産性を上げるには制度の見直しが不可欠です。
今回の国会論議の混乱は、不備なデータをもとに裁量労働制が労働時間の短縮につながるかのような発言をしたことに端を発しています。しかし、そもそも裁量労働制は、働く時間の短縮を目的とした制度ではありません。本質論と関係ない理由による裁量労働制の対象業務拡大の先送りは、企業が成長力を高める際の障害になりうることを忘れてはならない。

(2018年3月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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