超富裕層に対する増税の検討の必要性

財務省は、所得が年間数億円を超える人を対象に税負担を引き上げる検討に入っています。所得の多い富裕層ほど税負担率が低くなる逆転現象が起きています。逆転現象は、所得ごとの税率の違いで生じます。給与は高額になるほど税率が上がる累進制で、所得税の最高税率は45%です。分離して課税する株式や土地・建物の売却利益の所得税率は一律15%です。株式などの売却が多いほど税負担が低くなります。
政府税制調査会のデータによれば、所得税と社会保険料の負担率は所得5千万超~1億円の層で28.7%と最も高くなります。所得5億超~10億円は21.5%、50億超~100億円では17.2%となり、300万~400万円の17.9%より低くなります。1億円を境に負担率が下がり、財務省は1億円の壁と表現し、不公平感を是正する必要があると説明しています。
2020年に所得1億円を超えた納税者は1.9万人で、所得総額は5.6兆円です。このうち非上場・上場株や土地・建物の売却益など税率の低い所得が6割で、3割を占める非上場株の売却益は、同族企業のオーナーやスタートアップの創業者などごく限られた人が得ています。株売却益などの課税強化は幅広い層に影響が及びます。非上場株への実質的な課税強化につながれば、スタートアップの創業意欲をそぐ恐れも出てきます。
社会保障費の増加や新型コロナウイルス禍、物価高への対応で政府の債務残高は膨らみ続けています。財政健全化へ消費税や所得税の税率を引き上げる議論もいずれは避けて通れません。そのためにも税の公平性、公正性への信頼を高める取り組みが欠かせません。

 

(2022年11月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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