遠隔ICU治療

集中治療専門の医師が、ディスプレー画面を見ながら、離れた複数の病院のICUにいる患者の容体に目を光らせる、遠隔ICUと呼ばれるシステムが利用されるようになってきています。きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大です。最先端のITが医療従事者同士をつなぎ、患者の命を守る時代がやってきています。
ベテランの集中治療医がディスプレーの画面を見ながら、患者の治療にあたります。新型コロナウイルスに感染して呼吸不全となり、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)で治療を受ける重症患者もいます。各画面には、病床のカメラ映像のほか患者の心拍や呼吸数、血液検査の結果などが映し出されています。どの患者から優先して治療すべきかや、各患者をICUから退室させた場合に48時間以内に死亡するリスクなども分かります。危険な兆候があればアラートで知らせます。
こうした遠隔治療システムを使用することにより、ICUに入る医師や看護師の数を最小限に抑えられます。感染リスクを抑えながら、判断に悩む場面では、ベテランの医師が助言し最善の治療ができるようになります。ソフトウェアが示す情報のおかげで、病状悪化のリスクも早めに察知しやすくなります。しかも、どのICUでも標準化された質の高い治療を提供できるようになり、若手スタッフへの教育効果も期待できます。
集中治療の専門医は、全国に2,000人弱しかおらず、しかも都市部に偏っています。遠隔ICUを医療機関同士の支援に活用できれば、地域医療の水準の底上げにもつながります。課題は費用や情報セキュリティーです。使うシステムや規模にもよりますが、遠隔ICUは年に数百万円から数千万円の運用費がかります。電子カルテに接続したり、データを他施設とやりとりしたりする際には、システム障害や情報漏洩への細心の注意も必要になります。

(2021年3月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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