重粒子線がん治療の特徴

がん治療は、①がん細胞を手術などによって直接切り取る外科治療、②抗がん剤を投与する化学療法、③X線などの光子線を照射することで、がん細胞を死滅させる放射線治療からなります。
重粒子線治療は、③放射線治療の一つで、炭素イオンを光速の70%まで加速させ、この粒子線をがん細胞に照射するというものです。X線などは、線量が最も高いのが皮膚の表面で、体内のがん細胞に到達したときには低下してしまいます。重粒子線治療の場合、がん細胞に到達する位置で線量が最大となり、質量が大きく拡散しないため、他の細胞を傷つけないといった特徴があります。同じ粒子線でも陽子を使うことが、欧米では装置の小型化が容易であるため一般的ですが、炭素イオンは陽子の12倍の質量があるため、より治療効果が高いとされています。
治療期間が短いというメリットもあります。前立腺がんでは、X線治療の場合、35~39回の照射が必要となりますが、重粒子線治療の場合、12回で済みます。これまで国内での重粒子線治療を受けた患者数は、累計で3万人前後に上っています。世界では中国、ドイツ、イタリアなどで13基が稼働中で、そのうち7基は日本です。

重粒子線治療装置にとってネックとなっているのが大きさです。重粒子を加速させる主加速器であるシンクロトロンは直径20㍍ほどになってしまいます。東芝は、世界で初めて回転ガントリーに超電導技術を使用することで小型・軽量化を実現しました。もう一つの課題は、建設費で平均して150億円程度かかることです。
重粒子線による治療費は、先進医療に位置付けられている症例の場合は、一律で314万円です。しかし、何度治療を受けても同額であり、民間保険の先進医療特約に加入していれば、全額保険で支払い可能です。保険適用されている症例では、前立腺の場合160万円、頭頸部、骨軟部などについては237.5万円で、保険証によって1~3割の負担額となります。また、高額医療費制度も適用されます。

(Wedge vol.34 No.10 2022)
(吉村 やすのり)

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