高等教育の無償化―Ⅱ

無償化の課題
 高等教育を受ける機会を保証しようと無償化の議論が盛んになってきています。わが国は高等教育支出の公費負担は、対国内総生産の0.50.6%であり、主要国中で最下位です。私費負担が教育支出の約3分の2を占めています。私費負担を軽減し、大学進学率を高めることは、個々の知識や能力を高め、経済成長のみならず生活の安定化をもたらします。さらに少子化対策としても効果的であり、費用対便益も大きいとされています。しかし、無償化を実施するためには、目的の妥当性と合理性と同時に、政策実施の費用負担の公正性・実行可能性を勘案しなければなりません。少なくとも2つの課題を乗り越えなければなりません。
 第1は同一世代内の負担の公正性の問題です。同じ若年世代でも大学に進学しない層もいます。大学進学者でも高等教育への財政支出拡大より子育て支援や医療、防災を選好する層もいます。無償化の対象が、大学ならば世代の約半数、高等教育機関全体としても約2割は、自らが受益者になりません。
 第2は世代間の負担の公正性の問題です。若年世代は子育て支援や保育需要が拡大し、幼児教育の無償化にとどまらない児童政策推進を要望し、高齢世代は介護・医療や年金の充実を期待します。若年層、青壮年層、高齢層それぞれの需要に対応する財源は減少してしまいます。財源が増えない中で、教育費のみを増やすのは難しくなります。もし授業料を廃止し無料化するならば、増税は不可避です。

(吉村 やすのり)

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