高齢者における帯状疱疹の増加

大人の約9割は、子どもの頃に水疱瘡に罹っています。発疹が現れてから1週間ほどで治りますが、病原体である水疱瘡帯状疱疹ウイルスは、神経節に潜伏し続け、やがて帯状疱疹の原因となります。このウイルスは、免疫細胞にブロックされ眠っていますが、加齢、過労や睡眠不足、がんや糖尿病などの慢性疾患で免疫が低下した時に再び活動し始めます。
最初は、体の片側の皮膚にピリピリとして痛みなどを感じますが、数日から1週間ほどして激痛とともに赤い斑点や水ぶくれが神経に沿って帯状に現れます。水ぶくれは、やがて瘡蓋となり痛みも消えますが、高齢者や症状が重かった場合は、慢性的な痛み帯状疱疹後神経痛が続くことがあります。帯状疱疹は重症化すると、顔面にできた場合は視力、聴力、味覚などの感覚に影響が残ったり表情筋に麻痺が起きたりします。
日本や欧米など先進国では、ほとんどの世代で患者が増えています。要因の一つは生活環境の変化です。免疫は20年程で弱まりますが、これまでは水疱瘡を発症した子どもと接することで再感染が起き、免疫を維持してきました。しかし、核家族化などで子どもと接することが減り、再感染する機会が失われていることに基因します。2014年に、小児への水痘ワクチン接種が定期接種の対象になったことも影響しています。
増え続ける帯状疱疹の対策として登場したのは、罹患率が急増する50代以上を対象とした予防ワクチンです。帯状疱疹の発症予防だけでなく、発症後の重症化や帯状疱疹後神経痛も減らせます。2016年には、水疱瘡予防のワクチンが帯状疱疹にも使えるようになりました。水疱瘡用ワクチンは、弱毒化したウイルスを用いる生ワクチンで、50代以降に1回接種します。2020年1月には、生ワクチンではない不活化ワクチンとうタイプのシングリックスが登場しています。2~6カ月の間隔で2回接種します。
発症した時は、抗ウイルス剤を服用することで重症化や後遺症を防ぐことができます。安静を保ち体を冷やさないことを心がけます。発疹や水ぶくれには、柔らかいガーゼなどを当てることで症状を和らげるほか、他人にうつすことを予防できます。

(2021年2月13日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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