ES細胞による治療

ES細胞は、体の様々な組織や臓器になれる万能細胞で、受精卵(胚)からつくるので胚性幹細胞と呼ばれています。国立成育医療研究センターが、ヒトのES細胞からつくった肝臓の細胞を、生まれつき肝臓の病気がある赤ちゃんに移植しました。ES細胞はからつくった肝細胞を赤ちゃんの腹部に注入し、一時的に肝臓の働きを高めておいて、半年後に父親の肝臓の一部をもらって移植し、無事に退院しました。体が成長して難しい手術を受けられるようになるまで、ES細胞が命をつないだことになります。
海外では、目や心臓などの病気の患者にES細胞を移植する臨床試験が進んでいます。日本では、京都大学の山中伸弥教授が発見したiPS細胞を患者に使う研究が盛んに行われています。わが国では、ES細胞が治療に使われたのは初めてです。iPS細胞は、血液や皮膚の細胞に人工的に遺伝子を加えてつくります。ES細胞は、不妊治療で余った受精卵から得られた細胞を増やしたものです。どちらも他人の細胞を移植すると拒絶反応が起きますが、患者と似た体質の人からつくったiPS細胞なら抑えられます。わが国ではiPS細胞の研究が先行していましたが、iPS細胞には質的バラつきも多く、樹立に時間とお金を要します。そのため、海外では安全性や確実性の観点よりES細胞を用いた治療が先行しています。

(2020年6月8日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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