ES細胞の再生医療応用

京都大学は、再生医療に使う人の胚性幹細胞(ES細胞)を7月にも企業や大学などに配布するとしています。不妊治療で余った受精卵からES細胞を作り、提供できる体制が整いました。ES細胞はiPS細胞と同様に様々な臓器や組織の細胞に育ちます。京都大学はすでにiPS細胞を備蓄し、国内の大学や研究機関などに配布しています。ES細胞も再生医療の新たな選択肢になり、iPS細胞と比較検証することで、安全性や有効性の向上に貢献できます。
ES細胞は、生命の萌芽と位置付けられる受精卵からつくるため、倫理的な課題が指摘され、国内では、動物実験などの基礎研究に限って使われてきました。ヒトのiPS細胞が2007年にできてからは、倫理的な懸念がなく、患者本人の細胞からつくるため、ES細胞と違って拒絶反応の心配がないことから、日本ではiPS細胞への期待が高く、研究や予算もiPS細胞に集中しています。国は2014年、人を対象とした臨床研究のためのES細胞をつくれるように指針を改正しましたが、ES細胞の研究や臨床応用はあまり実施されていません。
しかし、iPS細胞による臨床研究は、コストや移植までの時間がかかることより、今ES細胞を用いた臨床応用が見直されるようになってきています。海外では、既に米国や韓国などでES細胞を使った再生医療の臨床試験が始まっています。目の難病の加齢黄斑変性の再生医療では、約40件の実施例があり、安全性と効果の検証が進んでいます。脊椎損傷や糖尿病の治療でも臨床試験が実施されています。ES細胞は様々な細胞に分化する能力があり、細胞の遺伝子変異が少ないなどの有用性が指摘されるようになってきています。

(2018年5月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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