ES細胞の医療応用

 ES細胞は、iPS細胞と同様に万能細胞と呼ばれ、培養すると目の細胞や神経細胞など様々な細胞に変化させることができます。日本で最初に作られたのは20035月で、京都大学が大学などでの基礎研究用に作製したのが最初です。しかし、ES細胞は生命の萌芽とされる受精卵から作るため、臨床研究や医療現場への応用は国の指針で厳しく規制されています。2014年に再生医療等安全性確保法が施行され、ES細胞の樹立に関する指針が策定されたことにより、医療用のES細胞を作ることが可能になりました。
 ES細胞から作った治療用の細胞は、患者にとって他人の細胞になるため、拒絶反応が起きる可能性が高くなることが問題になっています。そのため、京都大学のグループは、多数の受精卵よりES細胞の株を多数樹立しようとしています。20種類前後のES細胞を作製すれば、全体の5割程度の患者で拒絶反応をある程度弱めることができるのではないかと推察されています。
 2010年頃より米国では、ES細胞をすでに臨床応用しています。ヒトES細胞からオリゴデンドロサイト前駆細胞と呼ぶ神経系の細胞を作り、脊髄損傷の患者に移植しています。また、ES細胞から網膜色素上皮細胞を作り、萎縮型加齢黄斑変性症の患者に移植する臨床試験も開始されています。
 日本でも国立成育医療研究センターにおいて、ES細胞から肝細胞を誘導し、先天的な代謝異常でアンモニアが分解できない0歳児に移植する予定です。ES細胞は、医療のほか新薬の開発にも役立てることができます。ES細胞から腸の機能を持ったミニ腸を作製し、その腸の中で新薬の効果を検証することができます。先天性の小腸の病気や潰瘍性大腸炎、クローン病に代表される原因不明の慢性炎症性腸疾患など腸の難病の画期的な治療法の開発にもつながる可能性があります。

(2017年8月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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