ES細胞由来の肝細胞による臨床治験

 国立成育医療研究センターの研究チームは、ES細胞から作った肝細胞を、肝臓の病気の赤ちゃんに移植する医師主導の治験を国に申請する予定です。万能細胞の一つであるES細胞を使った国内初の臨床応用となります。生まれつき肝臓で特定の酵素が働かないため、アンモニアが分解されず血中にたまる高アンモニア症の重い赤ちゃんが対象です。患者は国内で10人程度です。意識障害や呼吸障害が起き、生後3か月以降なら肝臓移植で治療できますが、その前に亡くなることがあります。
 ES細胞は、不妊治療で使われなかった受精卵の一部の細胞を取り出し、培養して作ります。無限に増える特性を持ち、目的の細胞に変化させて患部に移植し、失った機能を回復させる再生医療に利用することができます。作製済みのES細胞を正常な肝細胞に分化させ、生後数週間以内に数千万個を、腹部から血管を通じて肝臓に送ります。ES細胞由来の肝細胞がアンモニアを分解、容体が安定し数か月後の肝臓移植につなげます。
 ES細胞は1998年に初めて作製され、同じ万能細胞のiPS細胞より歴史が長いのですが、受精卵を使うことへの倫理的議論から、医療への応用は遅れていました。米英仏韓などでは、2010年以降、ES細胞を使い、目の難病や糖尿病の治験が行われています。ES細胞を使った研究の成果は、iPS細胞の研究にも生かせます。両方の細胞を、有効な治療がない患者を救う車の両輪として実用化につなげていくべきです。

 

(2017年8月27日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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