HPVワクチン「捏造」報道の名誉棄損訴訟に憶う

2013年度から、HPVワクチン接種後の有症状者に対して適切な医療を提供することを目的に、厚生労働科学研究事業として信州大学医学部長であった池田修一教授を班長とする研究班が立ち上げられました。その研究成果について重大な疑義があるとして、医師・ジャーナリストの村中璃子氏が、雑誌Wedgeに「子宮頸がんワクチン薬害研究班 崩れる根拠、暴かれた捏造」と題した記事を寄稿しました。それに対して池田教授は、HPVワクチンに関連した神経障害の可能性を示唆しただけであり、「捏造」と断定した同記事の影響で職務の遂行が困難となり、退職を余儀なくされたとして、村中氏や出版社に対して名誉棄損訴訟を起こしました。
厚生労働省からも、池田教授の不適切な研究成果の発表によって、国民に誤解を招く事態となったことについての社会的責任は大きいという厳しい見解が示されていました。しかし、判決では、池田教授の研究成果は捏造とは断定できず、十分な裏付け取材を怠り、記事を掲載したとして、名誉棄損を認め、被告側に慰謝料など330万円の支払いと、謝罪広告の掲載を命じました。池田教授の全面勝訴ではありますが、この判決は、HPVワクチンの安全性や有効性とは全く無関係であることを認識しておかなければなりません。
池田教授も研究成果が捏造ではないと主張するのであれば、科学者として再現実験を実施しなければなりません。研究成果に疑義が持たれているのですから、科学者として自分の身の潔白を科学的に証明することが必要となります。こうした研究成果が、わが国におけるHPVワクチンの積極的勧奨が進まない原因の一つにもなっていることを認識すべきです。HPVワクチンに神経障害の可能性が有りとするならば、これは重大かつ深刻な問題です。勝訴に満足することなく、研究の再現性を実証し、学会発表や論文投稿により、自らの科学者としての名誉を勝ち得るべきです。わが国の若い男女をHPVウイルス感染から守るためにも、科学者としての社会的責任を一日も早く果たしてもらいたいものです。

(吉村 やすのり)

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