HPVワクチンの接種停止によってもたらされるリスク

 子宮頸がんの原因のほとんどが、ヒトパピロ―マウイルス(HPV)の感染によって起こることが知られています。HPVはごくありふれたウイルスであり、性交経験がある女性であれば、ほぼ8割の方々が50歳までに一度は感染すると言われています。わが国において、子宮頸がんは2030歳代の若い女性で増加しており、年間1万人以上が罹患し、約2,900人が死亡しています。このような罹患率・死亡率増加を防ぐための子宮頸がん予防戦略として、一次予防としてのワクチンが、二次予防としての検診(細胞診)とともに必須であることはグローバルコンセンサスとなっています。
 日本では2010年度から1316歳の少女に対するHPVワクチンの公費助成が開始され、20134月からは1216歳の少女に対する定期接種となりました。しかし、HPVワクチン接種が原因とされる副反応についての報道が繰り返し行われ、厚生労働省は20136月にワクチン接種の積極的な勧奨の一時中止を発表、その結果、ワクチン接種率は激減しました。現在の状況が続けば、HPVワクチン接種率に生まれた年度間格差が生じ、結果としてHPV感染率や子宮頸がんリスクも生まれた年度によって異なることになることが予想されます。
 大阪大学の上田先生のグループは、ワクチン接種の有無により、HPVの感染率の差違を検討しています。ワクチンが公費助成となった2010年度に、対象年齢を超えた17歳になっていて接種の機会を得られなった1993年生まれの少女の20歳時のHPV16/18感染率を1として、1994年度以降生まれの少女の20歳時のHPV16/18感染の相対リスクを算出しています。ワクチンが接種された1994年~1999年度生まれの感染率は0.3程度に低下していますが、2000年~2003年度生まれはワクチン導入前に限りなく近づくことが分かっています。
 将来、先進国の中でわが国においてのみ、多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益が、これ以上拡大しないよう、国が一刻も早くHPVワクチンの接種勧奨を再開することが強く望まれます。HPVワクチンを接種できなかった不利益が、将来新たな問題となることが容易に想像できます。そのためには、勧奨中止期間に接種を逃してしまった女子に対しても接種対象者として加える英断が求められています。

(吉村 やすのり)

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