iPS細胞とES細胞

iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、心臓や神経などの様々な細胞に変化できるため、重い心臓病や脊椎損傷など治すのに役立つと期待されています。同じように分化できる細胞としては、ES細胞(胚性幹細胞)もあり、海外ではES細胞の方が数多く研究されています。しかし、ES細胞には課題があります。ES細胞は、赤ちゃんに育つ前の受精卵を壊して、そこから細胞を取り出して作ります。ES細胞はもともと患者本人の細胞ではないため、ES細胞から様々な細胞を作って移植しても、そのままでは患者の免疫システムが異物とみなして攻撃してしまいます。こうした反応は、免疫拒絶反応と呼ばれ、この反応を抑える薬が必要になります。
これに対し、iPS細胞は、皮膚や血液などのあらゆる細胞から作ることができるため、倫理的な課題はクリアできます。患者自身の細胞を使えば、拒絶反応も起こりません。しかし、患者自身の細胞からiPS細胞を作るには半年~1年かかり、コストも最大1億円近くに上ってしまいます。そのため、京都大学のiPS細胞研究所は、拒絶反応が起こりにくい特殊な免疫タイプの人の細胞から、あらかじめiPS細胞を作って計画を進めています。2020年度には、日本人の50%に対応できる種類の細胞がそろう見通しです。
iPS細胞を使った治療を広げていくには、がん化にも注意が必要です。品質が悪いとがん化する恐れがあります。このため、人を対象にした研究では品質の良い細胞を選んで使い、万が一に備え、がんができていないかどうかを慎重に調べています。コストと安全性の観点から、最近、ES細胞が再評価され、海外ではES細胞研究が活発化しています。

(2018年11月10日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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