iPS細胞におけるHLAマッチング

iPS細胞は、患者自身の血液からつくれるため、拒絶反応の心配がないことが利点とされています。理化学研究所などが、2014年に世界で初めて目の難病加齢黄斑変性の患者に、iPS細胞からつくった網膜の組織を移植した手術は、本人の細胞からつくったiPS細胞を利用しています。しかし、患者一人ひとりに合わせるやり方は、培養や品質検査に膨大な費用と長い期間が必要となります。
多くの人に安価にiPS細胞による医療を提供するために、細胞を提供する京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、iPS細胞のストック事業を進めています。多くの日本人と免疫の型が(HLA型)が合う拒絶が起きにくい型をもつ人から、血液の提供を受けてiPS細胞をつくって備蓄する方法です。これにより、希望の研究機関や企業に患者からつくるより費用や時間を抑えられます。
一方、病気や体の部位によって、HLA型を一致させない臨床研究や製品開発の計画がいくつも進んでいます。厚生労働省が正式に了承した、大阪大学のグループによる重症心不全の臨床研究は型を合わせていません。一致させても心臓だと拒絶反応が起こるため、免疫抑制剤で抑える予定です。また、脊髄損傷など中枢神経の病気に対しては、中枢神経系は拒絶反応が起きにくい免疫寛容であるとされており、HLA型にこだわらない方法で試験が進められています。
型を合わせない再生医療が主流になれば、多大なコストをかけて多くのHLA型をそろえるストック事業の意義はなくなってきます。しかし、型の一致、不一致の影響はまだ分かっていません。免疫抑制剤の長期投与は、高齢患者に対してはリスクが高く、全身状態が悪化する可能性があります。HLA型を合わせない再生医療は、今後の大切な検討課題です。

 

(2018年6月7日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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