iPS細胞によるパーキンソン病の治療

 パーキンソン病は、脳内で運動の調節などにかかわる神経伝達物質ドーパミンを作る神経細胞が減ることにより、手足が震えたり次第に体が動かせなくなったりする病気です。患者は国内に約15万人いるとされています。薬物や脳に電極を埋め込む治療法などがありますが、神経細胞の減少をとめる治療法はありません。京都大学iPS細胞研究所の研究チームは、人のiPS細胞から作った神経細胞をパーキンソン病のサルに移植し、手足の震えなどの症状が軽減したとする研究成果を発表しました。

 研究チームは、パーキンソン病患者などの細胞をもとにしたiPS細胞からドーパミンを出す神経細胞を作製しました。これをパーキンソン病の症状を再現したカニクイザルの脳に移植しました。移植後1年間経過を観察すると、震えや運動能力の低下などのパーキンソン病の症状は時間が経つにつれて軽減してきました。健康な人の細胞をもとに作った神経細胞を移植した場合でも同じ結果でした。移植後のサルの様子を調べると、移植前に比べて表情が豊かになったり活動が活発になったりしています。安全性を確かめるため、MRIなどを使って、移植後約2年間にわたり移植した細胞の変化を観察してきましたが、腫瘍を形成するようなことはありませんでした。
 人のiPS細胞の発見から今年で10年が経過しました。大阪大学のチームは、7月に重症の心不全患者の心臓にiPS細胞から作った心筋をシート状にして移植する臨床研究の計画を学内に申請しています。慶應大学のチームは、脊椎損傷の患者にiPS細胞から作った神経のもとになる細胞を移植する臨床研究を計画しています。これまでヒトへの初の移植は2014年に行われました。理化学研究所などのチームが、iPS細胞から作った網膜細胞を加齢黄斑変性の患者に移植する世界初の臨床研究を始めましたが、結果はまだ出ていません。日本発のiPS細胞の再生医療への応用が実施されるようになってきています。

(2017年8月31日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。