iPS細胞のリスク

ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)を目的の細胞に分化させた際、がんに関連する遺伝子や染色体に異常が生じたとの分析結果が明らかになっています。再生医療用iPS細胞を備蓄する京都大iPS細胞研究所のストック事業では、他人に移植しても強い免疫拒絶が起きにくい特殊な白血球型を持つドナーの臍帯血や血液からiPS細胞を作製しています。これまでに7人から提供を受け27株を作製しました。1株を数十本のチューブやロットと呼ばれる筒状の容器に小分けして冷凍保管し、臨床研究や治験をする病院や大学、企業などへ出荷しています。出荷先では細胞を解凍後、培養して目的の細胞に分化させています。
分析結果が判明した4株のうち2株は、2カ所の出荷先でそれぞれ同じ種類の細胞に分化させたところ、がん関連遺伝子の変異や染色体の異常が現れました。同じ株でも、容器ごと、あるいは出荷先によって異常の有無が分かれていました。変異はいつ、なぜ生じたのか分かっていません。しかし、今回の結果から、ストックの同じ株でも、容器ごとに性質が不均質だったり、全体的に性質が不安定だったりする可能性が示唆されます。iPS細胞は、複数の遺伝子を体細胞に導入し、初期化して作製しますが、その際にゲノムのあちこちに数百以上の変異が生じることが知られています。
がん関連遺伝子の変異のある細胞が移植後にがん化するかどうかは分かっていません。しかし、国内で実施中の臨床研究では、分化細胞の段階で全ゲノム解析をして変異がないものに限って移植しています。がん化の可能性が低いとしても、社会の理解を得ながら再生医療研究を進めるには、患者の立場に立ち、考え得るリスクを全て取り除くべきです。

(2020年2月13日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

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