iPS細胞研究の功罪

米情報調査会社クラリベイトの集計によれば、日本のiPS細胞関連の論文数は増え続け、米国の約4割を維持しています。2015~2017年の基礎生命科学の論文数が、10年前より7%減った中で、健闘しています。iPS細胞を使った再生医療は、角膜や心臓の筋肉など一部で臨床応用が実現していますが、一般医療に広がる時期が見通せないばかりか、臨床上の有用性は未だ確立されていない状況です。
再生医療は、体内にあり様々な細胞に変わる体性幹細胞、受精卵から作るES細胞など、他にも利用できる細胞があります。iPS細胞は、体性幹細胞より多能性が高く、ES細胞の倫理的な問題をはらまないなど利点がありますが、他の細胞の研究が足踏みし、再生医療の選択肢が狭まってしまったといった批判もあります。細胞を使った再生医療等製品の数は、今年1月現在で日本は6と、米国25、欧州39より少数です。費用対効果の点からも、十分な研究成果が得られているとは言えません。
この間、遺伝情報を効率的に改変できる新技術ゲノム編集や、遺伝子改変技術を使ったがん免疫療法など、海外で産業化や研究が加速した生命科学や医療技術があります。しかし、これらの分野での研究は、海外に比べて出遅れています。また、新型コロナに関する論文数も少なく、研究の多様性が失われてしまっています。

(2020年10月4日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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