性同一性障害で女性から性別変更した男性とその妻が、第三者からの精子提供(AID)を受けてもうけた子について、最高裁は「夫の子」と認める決定をした。
性同一性障害特例法3条1項の規定に基づき、男性への性別変更の審判を受けた者は男性と見なされるため、民法の規定に基づき夫として婚姻することができるとされている。そのため婚姻中に妻が子を懐胎した時は、民法772条の規定により、生まれた子は夫の子として推定されるべきであるとの判断である。
性別変更の審判を受けた者については、妻との性的関係によって子をつくることはできない。しかしながら、一方でそのような者に婚姻することを認めておきながら、他方で生まれた子を772条の摘出の推定が及ばないとするのは相当ではないとの判断である。
本裁判においては、親子関係を認めるべきだとするものが3名、認めるべきでないとするものが2名であった。このように最高裁においても判断が分かれる難しい問題である。これまで60年以上に渡ってAIDが実施され、この医療技術によって15,000名以上の子どもが誕生している。これらの子どもは民法772条1項の摘出の推定が及ぶと考えられてきたが、AID児の法的地位は極めて不安定であったと言わざるを得ない。第三者を介する生殖補助医療については、親子関係についての法整備が急務である。
(吉村 やすのり)