CAR-T療法とは、遺伝子を改変してがんへの攻撃力を高めた免疫細胞を患者へ移植する治療法です。従来の治療法では、数カ月しか生きられないと診断された白血病患者のうちの7~9割が、1年以上延命するといった高い効果で注目を集めています。がん治療では外科手術や抗がん剤、放射線治療に続く、がん免疫療法の一つとして研究開発が盛んに行われています。スイスの製薬大手ノバルティスが、2017年に米国で白血病向けの新薬キムリアで、世界で初めて製造販売の承認を取得しています。
CAR-T療法の対象を、患者の多い食道がんや肺がんといった様々な固形がんにまで広げる研究が進んでいます。三重大学は皮膚がんや食道がんなどにある特定の分子を目印に攻撃する方法を開発しています。慶應義塾大学なども効果を高める目印となる分子を見つけています。血液のがんに限られた高い効果を固形がんでも実現できれば、がん治療を大きく変える可能性があります。
初めて実用化されたCAR-T療法の治療薬キムリアの薬価は3,300万円超です。患者自身の細胞を使うため、大量生産によるコスト抑制が難しくなっています。患者数が多い胃や肺などの固形がんの治療で普及すれば、医療財政の大きな負担になってしまいます。そこでコスト抑制に向けた取り組みも進んでいます。京都大学はiPS細胞から免疫細胞を量産する技術の開発に取り組んでいます。ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングは名古屋大学などと協力し、簡単に免疫細胞を改良できる安価なCAR-T療法の開発を目指しています。
(2019年11月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)