いわゆる「卵巣バンク」の設立に憶う―前編

 生殖医療のクリニックが、がん患者の治療によって卵巣機能が低下する可能性がある女性に対し、治療前に卵巣の一部の組織を採取し凍結する、いわゆる医学的な卵巣組織の凍結保存することを発表しました。現在、凍結を行う場合、がん治療と凍結保存を同じ医療機関で受けることが多く、近くに対応可能な医療機関がない場合、患者は遠方の病院に行かなければなりませんでした。卵巣バンクネットワークを作り、卵巣摘出や治療後の移植をする病院と凍結保存する施設とが連携することにより、女性がん患者が卵巣組織を凍結保存しやすくなりました。卵巣摘出・移植する機関には国内の13医療機関が参加し、京野アートクリニックなど全国4ヶ所でまとめて凍結保存することにしています。
 37歳以下のがん患者を対象に卵巣組織を凍結する予定で、日本産科婦人科学会の承認を得てから実施するとのことです。自分の将来の妊娠・出産に備える健康な女性は実施しないことになっています。日本産科婦人科学会は、がん患者に対する卵巣組織の凍結については、医学的な卵子や卵巣組織の凍結についての会告を2015年に出しています。現在、わが国のみならず、海外においても既に実施されており、治療後融解した卵巣組織を移植することにより、海外では30例以上の出産例が報告されています。
 卵巣組織の凍結は、未婚女性でも実施できること、がん治療の開始が遅れないこと、多くの卵子を凍結保存できることなどの長所がある一方、必ずしも移植後卵巣機能の回復を望めないことがあること、移植した卵巣組織に悪性細胞の混入の危険性があること、現在までの妊娠・出産例の報告が少ないことなどがあげられます。そのため海外では、臨床研究として実施されています。

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