予期せぬ妊娠をした女性が匿名で赤ちゃんを預けるこうのとりのゆりかごが、熊本市の慈恵病院に開設されて5月で15年を迎えました。2021年度までに161人が預けられています。ゆりかごの課題とされる孤立出産などを防ぐため、2019年には、病院の担当者のみに身元を明かし、子どもが後に出自を知ることができる内密出産も独自に導入しています。2021年に初めて実施され、これまで2人がこの仕組みで出産したことを病院は明かしています。子の戸籍は首長職権での作成が示されましたが、課題も多く、国がガイドラインを策定中です。
ゆりかごに預けられて以降は、子どもは大切にされていますが、医師や助産師の立ち会いがないまま自宅などで産む孤立出産や、出産後の熊本までの移動などに不安は残ります。その意味で、内密出産は、ゆりかごがはらむ出産や移動の危険がほぼ解消されるという意味では良い仕組みと思われます。出産前に来院することで、担当者とやりとりを重ねられる点も良いと考えられます。一方で、個人の重要な情報を民間が預かる負担や、出産や滞在にかかる費用を病院が担っており、国として自治体として、制度化する必要性があると思われます。
ゆりかごや内密出産にいたる背景には、貧困、孤立、虐待などの問題があること、男性側の責任が置き去りにされていることなどが挙げられます。子どもは社会が育てるという共通認識が深まれば、自ずと解決の道が開かれると思います。女性だけに全ての責任を負わせる風潮は絶対に許されません。
(2022年7月4日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)