これからの社会と産婦人科医療―Ⅳ

産婦人科医の役割
高齢化問題には多額の税金が投入され重要視されているが、少子化対策とその背景にある女性の健康問題はこれまで軽視されてきた。出生率を回復させるためには、高齢者への給付に偏っている社会保障の財源の配分を見直し、女性の健康と子どものための支援を充実させることを考えなければならない。産婦人科医は、女性の健康を全人的に支援し、女性の幸福を追求するプロフェッションであり、女性と子どもへの投資が将来の社会保障制度の支えを増やすことに繋がることを、国民に丁寧に説明する役割を担っている。また望まない妊娠により、生まれた子どもが虐待を受けることもあり、こうした深刻化する養育困難な実態を把握し、すべての生まれてくる子どもが幸せに暮らすことができる環境を整備するのも重要な産婦人科医の務めである。女性が心健やかに子どもを産み、安心して子育てや教育ができる成熟した社会の実現なくして加速化する少子化の流れを断ち切ることはできない。
結婚を希望し、子どもを持ちたいと思う人が減少していないのに、未婚率は年々上昇している。若い男女の妊娠や出産に対する希望を叶える第一歩は、医学的にみて理想的な女性の妊娠年齢は、25歳から35歳であることを知ることより始まる。結婚や妊娠を、望まない妊娠、避妊というネガティブな切り口で捉えるのではなく、いかにしたら妊娠できるのか、妊娠し子どもを育てることの素晴らしさといったポジティブな考え方で、思春期から教育することが大切となる。これまでの文部科学省による学校教育は、生殖に関する知識の啓発という観点からは必ずしも十分とはいえず、若い男女が妊娠現象を考える上で有用な情報が得られる手段とはなり得ていない。生殖年齢にある女性が、この時期に出産できるような社会や職場の環境づくりが何よりも必要である。そのためには、高齢妊娠の困難性や危険性を思春期の頃より教育することも大切であり、その先導者たらん産婦人科医の役割は極めて枢要なものとなる。

(吉村 やすのり)

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