日本医学会が、子宮移植の実施を容認しました。現在の臓器移植法では、脳死ドナーからの子宮移植は認められていないので、生体移植となります。日本の移植医療を見渡すと、脳死移植を基本とする方針と実態に乖離がみられます。例外であるはずの生体移植が、脳死移植よりはるかに多くなっています。これは世界的には見られない現象です。
脳死臓器提供も増えてはいます。2000年代までは多くて年10件前後でしたが、2019年には97件となっています。しかし、ドナー不足に変わりはなく、肝臓や腎臓といった生体移植ができる臓器は、生体への依存が続いています。脳死提供はこれまで全体で771件ですが、肝臓の生体移植は、2019年には1年間で300件以上行われ、累計9,400件を超えています。
日本医学会の検討委員会は、生体からの子宮移植を臨床研究として認めましたが、移植医療の基本は脳死からの臓器提供であるとも明示しています。臓器移植法の運用指針に、生体移植はやむを得ない場合に例外として実施されるとあることに沿っています。健康体を傷つけて成り立つ生体移植は、学会の指針に基づいて実施されますが、さらに厳しい制約を求める意見もあります。脳死移植は法規制の下で行われますが、生体移植にはそれがなく、やりやすい手法に流されることも懸念され、法に規制を定めるべきかもしれません。生体移植を行う場合は、ドナーを守る体制整備は必須となります。
(2021年7月31日 読売新聞)
(吉村 やすのり)