海外での臓器移植を無許可であっせんしたとしてNPO法人が摘発されました。悪質な事件の背景には、日本国内の移植件数の少なさがあります。人口100万人あたりの件数は世界44位です。臓器提供者不足は深刻で意思表示も1割にとどまり、海外渡航の移植が相次いでいます。提供者を増やすには、啓発活動や医療機関の体制整備が必須です。
日本の脳死移植は、世界でも類を見ない厳格なルールで始まりました。従来の心臓停止後から脳死下での提供を可能にする臓器移植法が施行されたのは、1997年です。脳死移植には、書面での本人の意思と家族の承諾を要件としています。臓器提供者は増えず、海外移植に望みを託す患者が目立っています。
日本は2010年施行の法改正で、15歳未満のほか、意思表示がなくても家族の承諾による臓器提供を認めました。提供者は増えましたが、年間100人ほどで横ばいの状態が続いています。日本の移植件数は人口100万人あたり18.8件で、1位の米国は126.8件、2位のスペインや3位のフランスとの差も大きくなっています。日本臓器移植ネットワークによれば、約1万6,000人の移植希望登録があります。年間で臓器移植を受けられるのは2~3%の水準です。
臓器移植の低迷は医療費も圧迫しています。日本透析医学会によれば、低下した腎臓の機能を補う人工透析を受けている患者は、2021年末で約35万人にも達しています。2000年の約21万人の1.7倍となり、国民医療費約43兆円の4%を占めています。海外の研究では、腎移植を受けて透析が不要になることで、医療費の削減効果が報告されています。
悪質な仲介組織を減らすには、国内での臓器移植数を増やすしかありません。移植医療が可能な施設を増やすしかありません。移植医療が可能な施設を増やした上で、多くの項目を満たす必要のある脳死診断の回数や基準の見直しが必要となります。スペインやフランスでは、本人が生前に臓器提供に反対の意思表示を示さなければ、提供するとみなす制度があります。
(2023年2月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)