わが国の科学研究の実績が低下しています。他の論文に引用された回数が、各分野で上位10%に入る、影響力のある論文を2003~2005年の平均でみると、自然科学や人文科学を含めて日本はその数が約4,600にのぼり、世界4位でした。しかし、10年後の2013~2015年は、平均で約4,200本へと減少しています。豪州やカナダにも抜かれ、9位に後退しています。論文数の全体も、日本は2003~2005年の平均約6万8千本から、2015年の約6万2千本へと減っています。一方、同じ期間に中国の論文数は5倍に増えています。米国も2割増えており、主要国で減少したのは日本だけです。
研究力の低下は3つの要因が考えられます。まず研究者の数です。特に研究の主力を担う若手研究者は、助教などの正規ポストが減り、非正規のポストで働く人が増えています。博士課程に入学する学生は2003年度の約1万8千人から、2017年度は約1万5千人に減少しています。研究環境も悪化しています。大学の研究者が研究に割ける時間は、2002年には年に1,300時間でしたが、2013年には900時間に減っています。職務時間に占める研究時間の割合は、47%から35%に低下しています。代わりに、授業や実験指導などの教育や、学外での講演などの社会貢献活動が、大幅に増えています。国の主な予算の配分先である大学部門の科学技術予算は、日本はかつて米国に次ぐ2位でしたが、近年は中国とドイツに抜かれて4位に後退しています。低迷の原因について、運営費交付金が削減されて人件費が減り、若手研究者は任期なしの安定した職を得る機会が少ないことがあげられます。
(2018年9月26日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)