わが国におけるPCR検査の必要性

新型コロナウイルス感染において、そもそも行動制限が必要なのはウイルス感染者だけです。ウイルス感染者が感染を拡散するのが問題で、非感染者は行動抑制の必要がありません。しかし、この新型ウイルスの場合、これまでのインフルエンザと異なり、無症状の感染者からも感染が広がることが問題です。無症状の感染者を、非感染者から区別し、隔離することは物理的に困難です。感染拡大を防ぐためには、この無症状の感染者をいかにして見つけ出すかが鍵となります。各国ではPCR検査が盛んに実施されています。しかし検査数には、国によって検査能力の差がみられています。
日本のPCR検査数は他の先進国に比べて著しく少ない状況です。全国の4分の1を超える感染者が出ている東京都の検査数が、全国の10分の1以下です。しかし、検査率の高い国でも、人口1,000人当たりドイツで約25件、韓国で約12件前後です。ドイツでは、充実した検査体制で、迅速な医療措置を可能にし、隣国フランスと比べ、感染死亡率を約4分の1にしています。韓国の場合、政府は官民協力で検査キットの生産を拡大し、医療機関の外部に600の検査所を置いています。日本では1,000人に1~2人しかPCR検査がされておりませんが、ドイツでは100人に2~3人が、韓国では100人に1人が検査されています。日本と比べて多数検査がなされているとよく報道されていますが、両国においても全国民的レベルの検査には到底達していません。
いずれの国においても全国民の検査が無理であるため、社会的隔離などの他の方策が感染防止に必要になります。PCR検査率の高い欧州では、厳格な都市のロックダウンにも拘らず、死者数が増加しています。日本の対策は、感染経路の追跡を重視してきました。PCR検査率が諸外国と比べて極めて低率にも拘らず、現在のところわが国の死者数は500人を超えていません。しかし、欧米からのウイルスの移入により、国内大都市での感染拡大に火がつき、現在は感染が拡大するにつれ、経路の追跡が困難になってきています。
わが国のPCR検査率の低さが大きな社会問題となっています。検査体制の不備も指摘されています。PCR検査の正診率が50~70%に過ぎないことを考慮すれば、無症状者を見つけ出すことになれば、巨大な検査能力が必要となります。これまでわが国のPCR検査については、現状を踏まえれば、それほど対応が間違っていたとは思えません。しかし、慶應義塾大学病院のデータによれば、新型コロナと関係なく入院してきた患者の6%にPCR検査陽性が出ています。現在も院内感染が後を絶たない状況を考えれば、今後の医療崩壊を防ぐためにも、先ず病院に入院の患者、手術前の患者、分娩予定者などはPCR検査を受ける必要があります。その後医療に従事する人々や入院患者に実施すべきと思われます。また介護施設での集団感染も次々に発生していることから、入居者のみならず職員のPCR検査も必要になります。これらの検査には保険適用が考慮されるべきです。またPCR検査の必要性については、保健所ではなくて、病院の医師の判断が優先されることは言うまでもないことです。
PCR検査能力の拡大は不可欠ですが、検査能力に壁があることを考えれば、必要度の高さを見極めることも大切です。医療を守るためにも、病院の院内感染や介護施設の集団発生を避けなければなりません。まずこれらの施設における検査を実施すべきです。どの国においても、PCR検査は全国民レベルで行われてはいません。最も検査されているドイツやイタリアでも、たかだか100人に3人程度しか検査されていないのですから。

(2020年5月1日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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