歴史的に見たわが国の人口は、短期的には増減があったとしても、長期的には増加基調にありました。特に、明治維新後は著しい増加を示してきましたが、2008年を頂点として、急速に減少し始めました。まさにフリーフォール(自由落下)曲線のようなカーブを描いて減少しており、その速度は多くの国民の想定を超えて加速しつつあります。それは昨年からの新型コロナウイルス感染症の拡大によって、さらに非連続的なカーブを描いて急減する兆候を示しています。
出生数は、2016年に100万人を切って以来減少を続けてきましたが、2019年は86万人台まで減少しました。他方、死亡数は増加を続け、2019年に138万人台になり、その結果、総人口は前年より約50万人減少し、減少数は毎年拡大しつつあります。日本で一番人口のない鳥取県の人口が55万人ですから、毎年鳥取県が消滅している状態です。このような減少傾向の中、昨年来の新型コロナウイルス感染症の拡大はさらに大きな変化をもたらしそうです。2020年の人口動態をみると、出生数は大きく減少していないものの、死亡数は減っています。総人口の減少はやや鈍ったといえますが、将来の予想を超えて大きく減少しているのが妊娠届出数です。これは、翌年の出生数の減少をもたらすことを示しており、従来の推定よりも10年近く早い人口減少が進んでいくと思われます。
人口減少の原因は、少子化にあります。医療や社会保障の進歩によって、平均寿命は延び、高齢者数は増加してきました。2008年まで、出生数が減少していたにもかかわらず、人口が増加し続けてきたのは、以前はその年齢までに亡くなっていた高齢者が多数長生きできるようになったことによります。その結果、高齢社会となり、生産年齢人口の減少と相まって、年金、医療、介護等の社会保障の負担が大きく将来にのしかかってきます。1960年代には7%程度であった高齢化率は、今や30%になろうとしています。20年後には40%になると予測されています。他方、その時生産年齢人口は約50%であり、1人の成年が1人の高齢者を支える時代が到来しようとしています。
人口減少による地域社会の衰退は、地域社会の消滅を招くことになります。人口が減り、顧客が減ることによって、商店街はシャッター街となり、高齢者の足である交通網の廃止が拡大し、地域から医療機関がなくなります。現在の医療制度の下では、患者の数が減ると病院やクリニック等の医療機関は経営が苦しくなり、需要減によって医療サービスの供給過剰が発生し、医療機関の閉鎖や地域からの撤退が起こる可能性は高くなります。医療機関がなくなれば、その地域は消滅することになります。
(Wedge May 2021)
(吉村 やすのり)