政府が少子化対策に本腰を入れたのは1990年です。前年の合計特殊出生率が過去最低を下回り、1.57ショックと言われました。エンゼルプラン、新エンゼルプラン、子ども・子育て応援プランと立て続けに計画を連発しました。0~2歳児保育の充実、仕事と子育ての両立支援など、今と同じ内容が並んでいます。しかし、予算は大幅に増やされず、2005年には合計特殊出生率が1.26にまで落ち込んでしまいました。
予算増へと向かう転機は3度訪れています。2009年の政権交代と2度の消費増税です。2009年に政権を取った民主党は、それまでの児童手当より増額した子ども手当を導入しました。所得制限も撤廃しました。現金による経済支援が強化されています。
2012年に政権を取り戻した自民党は、当時の安部晋三首相の下、消費税率引き上げの財源を活用し、保育園を増やすサービスの拡充に力点を置きました。少子化対策とともに、出産や育児による女性の離職を防いで活躍できるようにするのを政権の成長戦略の中核としました。2015年に希望出生率1.8を目標に掲げています。現物給付の伸びは、安倍政権が保育園整備に注力した時期と重なります。
保育園は増え、待機児童は減りました。安倍首相の方針を受けた待機児童解消加速化プランを始めた2013年と、現在の保育園の整備計画である新子育て安心プランが始まった2021年を比べると、全国の保育園などの定員は、229万人分から302万人分へと1.3倍になりました。待機児童数は2万3千人から5千人台へと4分の1程度まで減りました。2019年には消費税率の10%引き上げ時に、幼稚園や保育園が無償化されました。子育て家庭を中心にした家族向けの予算は着実に増加し、1990年度に約1兆5千億円だったのが、30年後の2020年度は10兆円を超え、7倍近くに増えています。
しかし、日本の子育てに関わる公的支出水準は他の先進国と比べ低いとされています。GDPに占める割合では、合計特殊出生率が日本より高いスウェーデンやフランスとの差は大きく、際立つのは現金給付の割合の低さです。OECDの調査によれば、日本の現金給付が占める割合は0.65%で、英国の2.12%、フランスの1.42%、スウェーデンの1.24%に比べても半分程度です。
一方、婚姻率(人口1千人あたりの婚姻件数)は、1989年の5.8から2021年は4.1に低下しています。パートやアルバイトの男性で配偶者がいる割合は、正規雇用の4分の1程度といった非正規雇用をめぐる対策も遅れています。非正規雇用者や低収入の未婚者向けの対策も所得制限の撤廃も必要となります。
(2023年2月4日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)