OECDの調査によれば、購買力平価の実質ベースで30年前と比べると、日本の年間賃金は4%増の3.9万ドル(440万円)どまりだったのに対し、米国は48%増の6.9万ドル、OECD平均が33%増の4.9万ドルと大きく伸びています。先進国では、この30年間で年収が伸びているのに対し、わが国は横ばいが続いています。
日本は、米英に比べて富や所得の偏在が小さいとされています。OECDのデータによれば、上位1%の世帯が所有する資産は国内全体の11%にとどまっています。厚生労働省によれば、所得1,000万円以上の世帯は2018年時点で全体の12%で、1996年のピークの19%から7ポイント低下しています。富裕層への増税を財源に分配政策へ傾く米国は、上位1%の富裕層が資産の40%を握っています。一部の経営者や投資家が、巨額の報酬を受け取ることで格差が広がっています。
衆院選では、分配や格差が焦点になっています。現時点の単純な所得の不平等ではなく、わが国においては、低い階層から高い階層に行きにくいといった階層の移動の難しさがあります。リスキリング(学び直し)や公教育の充実で、社会階層を上昇していける機会を増やすことは、国全体の成長の底上げにもつながります。
(2021年10月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)