無子化と草食化
2023年の合計特殊出生率は1.20と統計開始以来の最低を記録しています。子どもを持たない無子夫婦の割合も1977年に3.0%でしたが、2021年には7.7%まで増加しています。少子化の要因として最も大きいのは未婚者の増加とされています。1980年に生涯未婚の割合は男性で2.6%、女性で4.5%でしたが、2020年にはそれぞれ28.3%、17.8%まで増加しています。日本は婚姻関係が子どもを持つことが多いため、未婚男女の増加は無子化に直結しています。
若い世代の価値観の変化やインターネットを含む娯楽の多様化、婚姻制度にとらわれない家族形態を望む人が増えたことなどが指摘されています。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向調査によれば、年々男女ともにシングルの割合の増加が見られています。シングルの増加幅は同時期における未婚者の増加とほぼ一致します。交際相手のいる未婚の割合はほぼ変化がないので、婚姻の減少はそのままシングルの増加につながっています。
シングルで交際に関心がないと回答した女性は、交際中の女性や交際に関心があるシングルに比べて無職である割合が高くなっています。さらに交際に関心があるシングル女性より高卒以下の学歴が多くなっています。この傾向は男性でより顕著となり、収入や雇用状況と、異性との交際への関心が相関しています。定職に就く割合は、既婚者、交際中、交際に関心のあるシングル、交際に関心がないシングルの順に低くなります。年収も既婚男性が最も高く、交際に関心のないシングルの年収が最も低くなっています。
少子化の要因が語られる際、若者の草食化が原因のように語られます。しかし、実態は安定した雇用や高収入の人の既婚割合は高く、逆に未婚で交際相手がおらず、かつ異性との交際相手にも興味がないと回答している人ほど、無職や低所得層の割合が高くなっています。草食化の主たる要因は、不安定な雇用・低い収入による可能性が高いと思われます。
わが国のみならず、海外でもフィクトセクシュアル(fictosexual)と呼ばれる2次元に恋愛感情を抱く性的嗜好を自認する人は徐々に増えています。2次元への恋愛感情をオープンにできる風潮になったこと、多様な性に関する社会の理解や受容が高まったことなどが、フィクトセクシュアルの増加に寄与しています。思春期以降の対人関係やコミュニケーション、容姿への自信や自己肯定感がSNSやネットにも影響を受けています。バーチャル世界と常につながる青少年期を過ごした若い世代が、どのような恋愛観・結婚観・子どもを持つことに関する価値観を有していくのか、今後のさらなる注目が必要となります。

(2025年4月25日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)