わが国の生殖医療の未来に求めるもの

 地道な生物学の成果と不妊治療が合従して登場した体外受精・胚移植(IVF-ET)技術は宿志を実現した感があり、革新的な不妊症の治療法として導入され、瞬く間に全世界に普及していった。

これまでに全世界で500万人以上、わが国でも27万人以上の子どもがこの生殖補助医療技術(ART)によって誕生している。エドワーズ博士はこのIVF-ETを開発し、生殖医療にブレークスルーを起こした業績により、2010年のノーベル医学・生理学賞を受賞した。生殖医療に従事するわれわれ臨床医にとって正しく宿望を遂げた受賞といえる。

近年の生殖医学の進歩にはめざましいものがあり、生殖現象の解明のみならず、ヒトの生殖現象を操作する新しい技術も開発されている。細胞生物学や生殖工学の飛躍的進歩に伴って生殖医学も革命を受けつつあるといっても過言ではない。近年、がん患者に対する治療法の進歩により治療成績の向上により生存率の改善がみられるようになってきており、卵子や卵巣の凍結保存による妊孕能温存技術が臨床応用されるようになっている。このような生殖医学の発展は、実は発生生物学や生殖内分泌学の進歩に負うところが大きい。

この生殖現象に深くかかわる生殖医療は、新しい生命の誕生がある点で、すでに存在する生命を対象とする他の医療と根本的に異なった特性をもっている。今世紀に入り、ますます先端生殖工学技術は進歩をつづけている。とりわけ体細胞クローン技術や胚性幹細胞、iPS細胞の再生医療への応用は、今後の生殖医療の展開にブレークスルーをもたらしてくれるかもしれない。

(吉村やすのり)


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